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4.2 ファクトチェックと参考文献整備

このページで学ぶこと

  • AIのハルシネーション(幻覚)の種類と検出方法
  • 「出典と事実はAIに作らせない」原則
  • 数値・統計情報の検証方法
  • ReferenceリストのAI活用整備
  • 本文中の引用と参考文献リストの相互チェック
  • DOIの確認と整備方法
  • 主要な引用スタイルの比較

AIのハルシネーション

生成AIは、文献レビューや背景説明で「それっぽい研究やDOI」を出してくることがあります。しかし、これらは実在しない場合が多く、そのまま使うと捏造引用になってしまいます。

よくある問題

AIが生成した「Smith et al. (2023)」という引用が実在しなかったり、DOIが存在しないページにリンクしていたりするケースは、非常に多く報告されています。論文に限らず、X(旧ツイッター)においても、有名研究者が「この論文を読むべきだ」と投稿していた論文が、実際には存在しなかったという事例もありました。

ハルシネーションの種類

ハルシネーションは一様ではありません。種類を知ることで、効率的に検出できます。

種類 説明 危険度
架空の文献 存在しない論文・著者・DOIの生成 ★★★ "According to Johnson and Lee (2024)..."(実在しない)
事実の歪曲 実在する情報の細部を誤って伝える ★★★ 実際は p = .08 なのに p < .05 と記述
数値の捏造 もっともらしい統計数値を作り出す ★★★ "approximately 73% of L2 learners..."(根拠なし)
過度の一般化 限定的な知見を普遍的真理のように記述 ★★ "Research has consistently shown..."(実際は数本の研究のみ)
時系列の混乱 出来事の年代を間違える ★★ 2022年の出来事を2020年と記述
因果関係の創出 相関を因果に変換して記述 ★★ "X caused Y"(原著は相関を報告しただけ)

最も危険なのは「部分的に正しい」ハルシネーション

完全に架空の情報より、「著者名は実在するが論文の内容が違う」「数値自体は正しいが、参照している年が異なる統計データ」のような部分的な誤りのほうが見逃しやすく危険です。

出典と事実はAIに作らせない

文献レビューや背景で、AIの役割は「探す方向の提案」に限定します。

この主張を裏づけるために、どの種類の一次情報が必要かを提案してください。
例:メタ分析、システマティックレビュー、縦断研究など。
具体的な著者名、論文タイトル、DOIは作らないでください。
私は自分で検索して確認します。

[ここに主張]

ファクトチェックの手順

  1. 事実主張の分解: AIに段落内の事実主張を文ごとに分解させる
  2. 検証項目の抽出: 各主張について確認が必要な項目を特定する
  3. 一次情報の確認: 自分でデータベース(Google Scholar, PubMed, Crossref等)を検索する
  4. 原典との照合: 見つけた文献の内容と、自分の記述が一致しているか確認する
次の段落に含まれる「事実主張」を文ごとに分解して、
検証が必要な項目を番号付きで抽出してください。
各項目について、確認すべき一次情報の種類を1つだけ提案してください。
注意: 具体的な出典名やDOIは作らないでください。

[ここに段落]

数値・統計情報の検証

論文中の数値(統計量、パーセンテージ、年号等)は、特に慎重な検証が必要です。

数値の種類 検証方法 注意点
自分の分析結果 分析コードを再実行して照合 丸め方の一貫性を確認
先行研究の引用数値 原著論文を開いて直接確認 AIの要約を信用しない
一般的な統計(人口等) 公的統計サイトで確認 年次の確認(何年のデータか)
ソフトウェアのバージョン 公式サイトで現在のバージョンを確認 分析時点のバージョンを記載

プロンプト例:数値の検証リスト作成

以下の論文原稿に含まれる数値(統計量、パーセンテージ、年号、
サンプルサイズ、バージョン番号等)をすべて抽出し、
検証の必要度で分類してください。

分類:
[A] 自分のデータに基づく数値 → 分析結果と照合が必要
[B] 先行研究から引用した数値 → 原著との照合が必要
[C] 一般的な事実・統計 → 公的データソースでの確認が必要
[D] 検証不要(定義・基準値等)

[ここに論文原稿]

原典確認の方法

AIが提示した情報の裏取りに使えるデータベースとツールです。

用途 ツール URL
論文検索 Google Scholar https://scholar.google.com
医学・生命科学 PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
DOI検索 Crossref https://search.crossref.org
裏付けありの検索 Perplexity https://www.perplexity.ai/
裏付けありの検索 Elicit https://elicit.org/
裏付けありの検索 Consensus https://consensus.app/

確認の鉄則

AIに「Xは本当に2023年の報告で正しい?」と聞くだけでは不十分です。自信たっぷりに間違いを肯定することがあります。必ず原典にあたってください。

文献の実在確認フロー

AIが言及した文献が実在するかどうかを効率的に確認するフローです。

AIが文献に言及
① Google Scholar で著者名+キーワードを検索
    ↓ 見つからない
② Crossref でタイトルの一部を検索
    ↓ 見つからない
③ 著者のResearchGateやGoogle Scholar Profileを確認
    ↓ 見つからない
④ 文献は存在しない可能性が高い → 削除または別の文献に差し替え

Web of Science検索の活用

より確実な確認には、Web of ScienceScopus(大学で契約している場合)での検索が有効です。これらのデータベースに収録されていない文献は、プレデタリー(ハゲタカ)ジャーナルの可能性もあります。


Referenceリストの整備

参考文献リストは、論文の信頼性を支える重要な要素です。ここでの不備は査読者の印象を大きく損ないます。

AIでできること

  • フォーマットの統一チェック: APA、IEEE等のスタイルに沿っているか確認
  • 表記ゆれの検出: 同じ著者名の表記が異なっていないか
  • 不完全なエントリの指摘: 年、巻号、ページ、DOIが欠けていないか
以下のReferenceリストを、APA第7版のフォーマットに照らして確認してください。
- フォーマットの誤りを指摘
- 不足している情報(年、巻号、ページ、DOI)があれば [要追記] と表示
- 著者名の表記ゆれがあれば指摘

注意: 不足情報を推測して埋めないでください。私が自分で確認します。

[ここにReferenceリスト]

AIにReferenceリストを「生成」させないこと

AIにReferenceリストを丸ごと作らせると、架空の文献が混入するリスクが極めて高くなります。AIが提示したDOIもそのまま使わず、必ずCrossrefやジャーナルサイトで確認してください。

本文中の引用と参考文献リストの相互チェック

投稿前に必ず確認すべきは、本文中の引用と参考文献リストの一致です。

よくある不一致

不一致の種類 影響
本文にあるがリストにない 本文に Smith (2023) があるがリストに該当なし 査読者から「参考文献の欠落」と指摘される
リストにあるが本文にない リストに文献があるが本文で一度も引用されていない 「水増し」や「不注意」と見なされる
年の不一致 本文で Smith (2023)、リストで Smith (2024) データの信頼性を疑われる
著者名の不一致 本文で Smith et al.、リストで Smith & Jones(著者2名のため et al. 不要) APA規定違反

APA第7版の引用ルール(本文中)

著者数 本文中の表記
1名 著者名 (年) Smith (2023)
2名 著者名 & 著者名 (年) Smith & Jones (2023)
3名以上 第1著者 et al. (年) Smith et al. (2023)
団体著者(初出) フルネーム (略称, 年) World Health Organization (WHO, 2023)
団体著者(2回目以降) 略称 (年) WHO (2023)

プロンプト例:引用と参考文献の相互チェック

以下の論文原稿について、本文中の引用と参考文献リストの
整合性をチェックしてください。

確認項目:
(1) 本文中に引用があるのに、参考文献リストに記載がないもの
(2) 参考文献リストにあるのに、本文中で一度も引用されていないもの
(3) 著者名・年の表記が本文とリストで一致しないもの
(4) et al. の使い方がAPA第7版に準拠しているか
    (著者3名以上で初出から et al.)

【本文】
[ここに本文]

【参考文献リスト】
[ここにReferenceリスト]

DOIの確認と整備

DOI(Digital Object Identifier)は、学術文献の永続的な識別子です。正しいDOIがあれば、読者は確実に文献にアクセスできます。

確認手順

  1. Crossref で論文タイトルを検索
  2. DOIが見つかったら、https://doi.org/ に続けてDOIを入力し、正しいページに飛ぶか確認
  3. Referenceリストに追記する

DOI整備の効率化ツール例

ツール 機能 URL
Crossref Metadata Search タイトルや著者名からDOIを検索 https://search.crossref.org
Zoteroなど文献管理ソフト DOI/ISBN/PMIDから文献情報を自動取得 アイテムを追加すると書誌情報が保存される機能
PDF自動リネームツール PDFからDOIを検出してリネーム https://langtech.jp/renamer.html
DOI Content Negotiation DOIからメタデータをBibTeX等で取得 curl -LH "Accept: application/x-bibtex" https://doi.org/DOI

プロンプト例:参考文献のBibTeX変換

以下のAPA形式の参考文献リストを、BibTeX形式に変換してください。
各エントリについて:
- citationキーは「著者名+年」の形式(例: smith2023)
- DOIフィールドが空の場合は doi = {} のまま残す
- 情報が不足している場合は [要確認] のコメントを付ける

注意: DOIを推測して埋めないでください。

[ここにReferenceリスト]

文献管理ツールとの連携

文献管理ツールを使うことで、Referenceリストの整備を大幅に効率化できます。

ツール 特徴 URL
Zotero 無料・オープンソース、ブラウザ拡張 https://www.zotero.org
Mendeley 文献管理・PDF注釈 https://www.mendeley.com
Paperpile GoogleDrive、NotebookLMと連携できる。2026年2月現在最強 https://paperpile.com

文献管理のベストプラクティス

論文を読んだ時点でZoteroなどの文献管理ソフトに登録し、DOIが正しいことを確認しておくと、執筆時にReferenceリスト作成で苦労することがなくなります。「あとでまとめてやろう」はミスの元になります。

文献管理ソフトはPDFを登録すれば文献情報を自動で作成してくれます。論文執筆時には MS WordやGoogle Docs と連携して引用の自動挿入や参考文献リストの自動生成ができるため、大変便利です。ぜひ使うことをオススメします。

私は無料のZoteroを使っていますが、小塩真司先生のnote記事にもあるように、Google DriveやNotebookLMと連携できます。有料という点を除けば、2026年2月現在、機能面ではPaperpileが最強と言えるでしょう。

主要な引用スタイルの比較

投稿先によって引用スタイルが異なります。主要なスタイルの違いを把握しておきましょう。

項目 APA第7版 IEEE Vancouver
分野 社会科学、教育、心理 工学、情報科学 医学、生命科学
本文中の引用 (Smith, 2023) [1] (1) または 上付き¹
参考文献の並び順 著者名アルファベット順 引用順 引用順
著者名の表記 Smith, J. A. J. A. Smith Smith JA
DOI https://doi.org/... 形式 doi: 形式 doi: 形式

スタイルの混在は即リジェクト要因

1つの論文内で複数のスタイルが混在していると、デスクリジェクトの原因になります。Zoteroなどのツールを使えばスタイルの自動統一が可能です。

参考文献リストのセルフチェックリスト

投稿前に以下を確認してください。

  • 本文中のすべての引用が参考文献リストに存在する
  • 参考文献リストのすべてのエントリが本文中で引用されている
  • 著者名・年が本文とリストで一致している
  • 投稿先のスタイル(APA, IEEE等)で統一されている
  • 各エントリに必要な情報(著者、年、タイトル、ジャーナル名、巻号、ページ、DOI)が揃っている
  • DOIが正しいリンク先を指している(抜き打ちで3〜5件確認)
  • Webページの引用にはアクセス日が記載されている
  • 著者名の表記ゆれがない
  • 参考文献リスト内の並び順がスタイルに準拠している

Take-homeメッセージ

引用や参考文献は、AIに「整形」を手伝わせることはできますが、「存在確認」と「正確性の保証」は必ず研究者が担います。