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4.1 文法チェックとスタイル統一

このページで学ぶこと

  • 生成AIによる文法チェックの実践
  • 日本語話者に特有の文法エラーパターン
  • 冠詞の体系的な判断フレームワーク
  • Grammarlyなど専用ツールとの併用と限界
  • 論文全体のスタイル統一方法
  • 投稿先スタイルガイドへの準拠チェック
  • AI生成文の特徴と検出方法

AIによる文法チェック

生成AIは文法チェックに非常に有効です。ただし、「直してもらう」だけでなく「なぜ間違いなのかを説明させる」と、次回から正しく使える可能性が高まります。

以下の英文の文法・語法の問題点を指摘してください。
各問題について以下を示してください。
- 問題のある箇所
- なぜ問題なのか(ルールの説明)
- 修正案(1案のみ)

全文の書き直しは不要です。

[ここに英文]

日本語話者に特有の文法エラー

日本語話者が学術英語で犯しやすいエラーを体系的に整理します。

カテゴリ よくある誤り 正しい表現 原因
冠詞 ❌ In experiment, we... In the experiment, we... 特定の実験を指すため the が必要
冠詞 ❌ The education is important. Education is important. 一般論では無冠詞
可算/不可算 ❌ researches, informations, evidences research, information, evidence 不可算名詞の誤った複数形
主述の一致 ❌ The number of participants were... The number of participants was... the number of は単数扱い
不要な前置詞 ❌ discuss about, approach to (動詞) discuss X, approach X 日本語の「〜について」の影響
関係詞 ❌ The method which was used it... The method that was used... 関係詞と代名詞の二重使用
there構文 ❌ There are many researches exist. There are many studies. / Many studies exist. there構文と通常の動詞文の混同
名詞の連続 ❌ student questionnaire result analysis analysis of questionnaire results from students 名詞が4語以上連続すると読みにくい

プロンプト例:日本語話者特有のエラー検出

以下の英文を、日本語話者が犯しやすい文法エラーに絞って点検してください。

特に注意すべき項目:
(1) 冠詞(a/the/無冠詞)の誤り
(2) 可算/不可算名詞の混同
(3) 不要な前置詞の付加
(4) 主述の一致
(5) 名詞の過剰な連続(noun string)

各問題について:
- 該当箇所の引用
- 正しい表現
- 日本語のどのような思考パターンが原因か(1行)

[ここに英文]

冠詞の判断フレームワーク

冠詞は日本語話者にとって最大の難関です。以下の判断手順を使うと、体系的に判断できます。

ステップ1: その名詞は可算か不可算か?

  • 不可算(research, information, evidence, knowledge 等)→ 原則 無冠詞 or the
  • 可算 → ステップ2へ

ステップ2: 特定のものを指しているか?

  • 特定のもの(読者が「どれのこと」かわかる)→ the
  • 特定でない(初出、一般的な1つ)→ a/an

ステップ3: 一般論・総称として使っているか?

  • 一般論 → 複数形・無冠詞(Students need feedback.
  • 特定の集団 → the + 複数形(The students in this study...

学術英語でよく使う冠詞のパターン

表現 冠詞 理由
the present study the この論文の研究 = 特定
a questionnaire (初出) a 初めて言及
the questionnaire (2回目以降) the すでに言及済み
in Table 1 無冠詞 固有名扱い(番号付き)
language learning (一般論) 無冠詞 一般概念
the results the この研究の結果 = 特定

プロンプト例:冠詞の集中チェック

以下の英文の冠詞(a, the, 無冠詞)をすべて点検してください。

各冠詞について:
- 現在の使い方が正しいか(○/×)
- ×の場合、正しい冠詞と理由(「特定のものを指すため the」等)

冠詞以外の文法事項は無視してください。

[ここに英文]

専用ツールとの併用

生成AIだけでなく、文法チェック専用ツールを併用すると効果的です。

ツール 特徴 向いている用途
ChatGPT / Claude / Gemini 文脈を踏まえた説明、柔軟な対応 「なぜ間違いか」の理解
Grammarly リアルタイム校正、ブラウザ拡張あり 執筆中の文法・スペルチェック
DeepL Write 自然な英文への言い換え・修正 翻訳後の英文を整える
QuillBot 言い換え+文法チェック 表現を変えて読みやすくする
ProWritingAid 文体分析、繰り返し表現の検出 推敲・文体の統一
LanguageTool オープンソース、多言語対応 プライバシー重視の校正

ツールの使い分け

Grammarly などでまず機械的なエラーを潰し、その後にAIで文脈依存の問題(テンスの一貫性、ヘッジの適切さなど)をチェックする二段構えは効率的です。万能な文法チェックツールは存在しないので、実際に試してみて、それぞれのツールの限界を知っておくことが重要です。

ツールを信じすぎない

どのツールも誤検出(正しいのに誤りと指摘)や見逃し(誤りを検出しない)があります。最終判断は常に自分で行ってください。特に、ツールからの提案をそのまま全部受け入れると、学術英語の慣習に反する「修正」が混入することがあります。

文法チェックの段階的アプローチ

生成AIは、文章の最終チェックとしての校正やタイポ(誤字・誤植)検出にも活用できます。MS Wordなどのワープロソフトに搭載された校正機能では拾いにくい誤りを見つけられる点が大きな強みです。以下の3段階のアプローチで、効率的にエラーを減らすことができます。

第1段階: 機械的なエラー(ツール使用)

Grammarly などのツールや生成AIを使って、スペル、句読点、明らかな文法エラーを自動検出します。

以下の英文を校正し、タイポ(誤字・誤植)や
表記上の問題を指摘してください。

確認項目:
(1) スペルミス(特にワープロの校正機能で検出されにくいもの)
(2) 句読点の誤り(コンマ、ピリオド、セミコロンの不適切な使用)
(3) 大文字・小文字の誤り
(4) スペースの過不足(二重スペース、スペースの欠落)
(5) 同音異義語の取り違え(例: affect/effect, then/than, its/it's)

各問題について:
- 該当箇所の引用
- 修正案
- ワープロの校正機能で見逃されやすい理由(該当する場合)

[ここに英文]

第2段階: 文脈依存のエラー(AI使用)

以下の英文を、学術論文の[セクション名]セクションとして
文脈に依存する文法・語法の問題を点検してください。

確認項目:
(1) 時制の適切さ([セクション名]の慣習に沿っているか)
(2) 冠詞の使い方(特に the/a/無冠詞の選択)
(3) ヘッジ表現の過不足
(4) 主語と動詞の距離(主語が長すぎないか)

機械的なスペルや句読点のエラーは無視してください。

[ここに英文]

第3段階: 分野固有の慣習(自分で確認)

AIやツールでは検出しにくい、分野固有の表現慣習は自分で確認します。

  • 自分の分野のトップジャーナルの最新号を2〜3本読み、表現を比較する
  • 同じ分野の先輩研究者にチェックを依頼する(可能な場合)

スタイル統一の方法

論文全体で文体を統一するのは、複数セッションにわたって書く場合に特に重要です。

チェックすべきポイント

  • スペリング: American English か British English か("analyze" vs. "analyse")
  • 略語: 初出時にフルスペル+略語、以降は略語のみ
  • 数字の表記: 文頭や10未満はスペルアウト(three participants
  • 引用スタイル: APA, IEEE, Vancouver 等の一貫性
  • 用語の統一: 同じ概念に異なる用語を使っていないか
以下の論文全体について、スタイルの不統一を指摘してください。
確認してほしい項目:
- スペリング(米英の混在)
- 略語の初出ルール
- 数字の表記
- 用語の表記ゆれ
各項目について、不統一がある箇所と統一案を示してください。

[ここに論文全体または対象セクション]

スタイルシートの作成

論文執筆を始める前に、スタイルに関する決定事項をまとめた「スタイルシート」を作っておくと、複数日にわたる執筆で文体がぶれません。

スタイルシートの例

# 論文スタイルシート

## 基本設定
- スペリング: American English
- 引用スタイル: APA第7版
- 数字: 10未満はスペルアウト(ただし統計値・測定値は除く)

## 用語の統一
- L2 learners(× EFL learners, × second language learners と混在させない)
- generative AI(× GenAI, × gen AI, × LLM と混在させない)
- vocabulary knowledge(× lexical knowledge と混在させない)

## 略語
- CALL: Computer-Assisted Language Learning(初出で定義済み)
- RQ: Research Question(初出で定義済み)
- AI: 一般的に認知されているため定義不要

## その他
- serial comma: 使用する(A, B, and C)
- 図: Figure 1, Figure 2...(Fig. は使わない)
- 表: Table 1, Table 2...

投稿先のスタイルガイドへの準拠

ジャーナルごとに独自のスタイルガイド(Author Guidelines)があり、違反すると機械的にデスクリジェクト(査読に回らず却下)されることがあります。

主要なスタイル規定で確認すべき項目:

項目 確認内容 よくあるミス
語数制限 Abstract、本文、図表を含む/含まない Abstractの語数超過
参考文献スタイル APA, IEEE, Vancouver, Harvard等 スタイルの混在
図表の形式 解像度、ファイル形式、カラー/モノクロ 低解像度の図
セクション構成 必須セクション(Data Availability等) 必須セクションの欠落
匿名化 Blind review対応(著者名の削除) 本文中に自己引用が残る
AI使用の申告 必須/推奨/不要 申告漏れ

プロンプト例:スタイルガイドへの準拠チェック

以下の投稿先ジャーナルのスタイルガイド情報に基づいて、
私の論文原稿が規定に準拠しているか確認してください。

ジャーナルの規定:
- 参考文献スタイル: [APA第7版 / IEEE / その他]
- 語数制限: Abstract [X]語以内、本文 [X]語以内
- 匿名化: [必要 / 不要]
- AI使用の申告: [必須 / 推奨 / 不要]
- 必須セクション: [Data Availability Statement等]

以下の項目で問題がないか確認し、問題があれば指摘してください:
(1) 語数の確認
(2) 参考文献の書式
(3) 匿名化の漏れ(自己引用が残っていないか)
(4) 必須セクションの有無
(5) AI使用申告の有無

[ここに論文原稿]

AI生成文の特徴と検出

AIの出力を批判的に評価するためには、AI生成文の特徴を知っておくことが前提になります。AI検出ツールの限界と倫理的な自己管理の考え方については 1.2 学術的誠実性と剽窃防止 を参照してください。ここでは、実際の文体上の特徴と、それを自分の原稿でチェックするための実践的な方法に焦点を当てます。

AI生成文によく見られる特徴

特徴 具体例 対策
安全で中庸な主張 "This is an important area that deserves further attention." 自分の研究データに基づく具体的な主張に置き換える
定型的な接続表現の多用 Furthermore, ... Moreover, ... Additionally, ... が連続 接続表現を間引き、文の論理でつなげる
過剰なヘッジ "It may potentially suggest that there could be..." ヘッジを1文に1つまでに絞る
具体性の欠如 "Several studies have shown..."(どの研究か不明) 著者名・年号を自分で追加する
均質な文長 すべての文が似た長さ 短い文と長い文を意図的に混ぜる
感情的な強調語 "remarkably", "crucially", "it is worth noting that" 根拠なしの強調語を削除する

AIが過剰に使う傾向のある表現

1.2 学術的誠実性と剽窃防止 も参照)

AI特有表現 代替表現の例
delve into examine, investigate, explore
nuanced complex, multifaceted, subtle
landscape field, domain, area
It is worth noting that 削除して直接述べる
plays a crucial/pivotal role is important for, contributes to
a comprehensive understanding a better understanding, further insight
shed light on clarify, reveal, explain
in the realm of in, within the field of
foster promote, support, encourage
underscores highlights, demonstrates, shows

プロンプト例:AI的な文体の検出

以下の英文が、AI生成文に典型的な特徴を持っていないか
チェックしてください。

チェック項目:
(1) 定型的な接続表現の過剰使用
(2) 過剰なヘッジ(1文に複数のヘッジが重なっていないか)
(3) 具体性のない一般的主張
(4) 感情的な強調語(remarkably, crucially, notably等)の不必要な使用
(5) 文長の均質さ(すべての文が同じくらいの長さになっていないか)

問題が見つかった箇所を引用し、修正の方向性を示してください。

[ここに英文]

AIっぽさを気にしすぎない

上記の表現は、AIが広く使われる前から学術英語で普通に使われてきたものも多いです。自分が意識的に選んだ表現であれば、無理に変更する必要はありません。問題は「AIに校正してもらった出力を使用した結果、これらの表現が不自然に集中している」場合です。

複数AIモデルの特性と使い分け

2026年現在、利用可能な主要な生成AIには、それぞれ特徴があります。同じプロンプトでも異なる出力が得られるため、目的に応じた使い分けが有効です。

用途 推奨アプローチ
日本語→英語の変換 複数モデルの出力を比較し、最も自然なものを選ぶ
文法・語法のチェック 1つのモデルでチェック後、別モデルでダブルチェック
論理構造の診断 推論力の高いモデルを使う
表現の候補提示 異なるモデルから候補を集めると多様性が増す
統計コードの生成 コード生成に強いモデルを使い、必ず実行して検証

モデル間の出力比較の注意点

モデルは頻繁にアップデートされるため、「ChatGPTのほうが良い」「Claudeのほうが自然」といった評価は短期間で変わり得ます。重要なのは、特定のモデルに依存せず、常に自分の判断で最終決定する習慣を持つことです。