3.5 推敲テクニック¶
このページで学ぶこと
- 「下書きは自分、AIは診断医」方式と弱点の蓄積
- 一文だけ改善ループ
- 間違いを自分で見つけるクイズ化テクニック
- 推敲の段階的プロセス(マクロ→メゾ→ミクロ)
- AI不使用の推敲テクニック(逆アウトライン法)
- セクション間の一貫性チェック
- 自分の声を保ちながらAIで推敲する方法
- Abstractの最終チェック
- 投稿前の最終チェックリスト
- カバーレターの書き方
- 査読コメントへの対応
このページの位置づけ
3.1〜3.4 では、セクションごとの英文生成・洗練のワークフローを扱いました。本ページでは、論文全体を通した推敲と投稿準備に焦点を当てます。推敲の前提となるプロンプト設計の原則は 3.1 を、セクション固有のチェックポイントは各ページ(3.2 Introduction、3.3 Methods、3.4 Results/Discussion)を参照してください。
下書きは自分、AIは診断医¶
3.1 の基本原則 で述べたように、AIの役割は「生成」ではなく「診断」に限定するのが効果的です。先に自力で200〜300語でも書き切り、その後にAIへ診断タスクだけを与えます。
ポイントは "直してもらう" より "弱点の特定" に使うことです。毎回同じカテゴリで診断させると、自分の弱点がデータとして蓄積します。
弱点の記録と振り返り¶
AIの診断結果を記録して蓄積すると、自分の弱点パターンが見えてきます。
弱点記録のフォーマット例
| 日付 | セクション | カテゴリ | 指摘内容 | 自分の理解 |
|---|---|---|---|---|
| 2/11 | Methods | 文法 | 時制の不一致(現在形→過去形) | 手順は過去形で統一 |
| 2/11 | Results | 語法 | significant の位置が不自然 | 統計的有意性は形容詞で |
| 2/11 | Discussion | 論理 | 因果関係の飛躍 | データが示すのは相関のみ |
プロンプト例:弱点パターンの分析
一文だけ改善ループ¶
全文を一気に直させると、学習効果が薄くなります。代わりに、気になる1文だけを投げます。
ステップ1: 候補を出させる
ステップ2: 読者を想定して絞り込む
ステップ3: 自分で決めて採用する
この "選ぶ" 行為が学習になります。AIに決めさせるのではなく、自分で最終判断を下すことが重要です。
間違いを自分で見つけるクイズ化¶
AIに校正させるのではなく、自分で推理する力を鍛えるテクニックです。
自分が推理してから答え合わせをする流れです。時間はかかりませんが、確実に力がつきます。
推敲の段階的プロセス¶
推敲は1回で終わらせるのではなく、観点を変えて複数回行うのが効果的です。以下の3段階で進めると、異なるレベルの問題を効率的に発見できます。
第1段階: マクロレベル(構成・論理)¶
論文全体の構成と論理展開を確認します。
以下の論文原稿について、マクロレベルの問題を点検してください。
確認項目:
(1) 各セクションの役割が果たされているか
(2) Introduction→Methods→Results→Discussionの一貫性
(3) リサーチクエスチョンと結果・考察の対応
(4) パラグラフの配置は論理的か(入れ替えたほうが良い箇所はないか)
文法や表現の細かい修正は不要です。構成レベルの問題のみ指摘してください。
[ここに論文原稿]
第2段階: メゾレベル(パラグラフ・文のつながり)¶
パラグラフ内の論理展開と、パラグラフ間の接続を確認します。
以下の論文原稿について、パラグラフレベルの問題を点検してください。
確認項目:
(1) 各パラグラフのtopic sentenceは明確か
(2) 文と文のつながり(Given-New、接続表現)は自然か
(3) パラグラフ間の移行はスムーズか
(4) 不要な繰り返しがないか
[ここに論文原稿]
第3段階: ミクロレベル(文法・語法・表現)¶
個々の文の文法・語法・表現を確認します。
以下の論文原稿について、文レベルの問題を点検してください。
確認項目:
(1) 文法の誤り(主述の一致、冠詞、前置詞など)
(2) 時制の適切さ
(3) 冗長な表現
(4) コロケーションの不自然さ
(5) スペリング・句読点
各問題について、該当箇所を引用し、修正案を1つ示してください。
[ここに論文原稿]
段階の順序を守る
マクロ→メゾ→ミクロの順序で推敲することが重要です。構成レベルの問題が残っている段階で文法の推敲をしても、書き直しになれば無駄になります。
AI不使用の推敲テクニック¶
AIによる推敲は強力ですが、AIを使わない推敲テクニックも併用することで、AIが見落とす問題を発見できます。
逆アウトライン法(Reverse Outlining)¶
すでに書かれた原稿から、各パラグラフの主張を1文ずつ抽出してアウトラインを逆に作成する手法です。
手順:
- 各パラグラフの topic sentence(主張)を1文で抜き出す
- 抜き出した文を上から順に読む
- 論理の流れが追えるか、飛躍がないかを確認する
- 同じ主張を繰り返しているパラグラフがないかを確認する
逆アウトラインの効果
この作業を行うと、「topic sentenceが不明確なパラグラフ」「複数のトピックが混在しているパラグラフ」「論理が飛躍している箇所」が可視化されます。AIに頼らず、自分の目で構成を確認する力がつきます。
トラディショナル音読チェック¶
英文を声に出して読むと、黙読では気づかない以下の問題を発見しやすくなります。
- 文が長すぎて一息で読めない(分割の検討が必要)
- リズムが不自然な箇所(語順や構文の問題)
- 同じ語句の不必要な繰り返し
セクション間の一貫性チェック¶
論文全体を通して、用語・数値・主張の一貫性を確認することは非常に重要です。セクション固有のチェックは各ページ(3.3 Methodsチェックリスト、3.4 Discussion構成チェック)を参照してください。ここではセクション横断の一貫性に焦点を当てます。
よくある不一致のパターン¶
| 不一致の種類 | 例 | 影響 |
|---|---|---|
| 用語の表記ゆれ | MethodsでEFL learners、ResultsでEnglish learners | 読者が同じ対象か迷う |
| 参加者数の不一致 | Methodsで N = 120、Resultsで N = 118(除外理由の説明なし) | データの信頼性を疑われる |
| RQと結果の不対応 | RQが3つあるのにResultsで2つしか回答していない | 査読で確実に指摘される |
| 略語の不統一 | 初出でフルスペルなし、途中から別の略語を使用 | 読者に混乱を与える |
| 時制の不統一 | Results内で過去形と現在形が混在 | セクションの慣習に反する |
プロンプト例:セクション間の一貫性チェック
自分の声を保つ:AIの「均質化」を避ける¶
AIが書いた文章は流暢ですが、「誰が書いても同じ」文になりがちです。3.1 で述べた「やめどき」の判断と合わせて、以下のテクニックを実践してください。
均質化を避ける具体的な方法¶
- 自分の分野の特徴的な表現を維持する: 分野特有の慣用表現やjargonをAIに無理に一般化させない
- AIの出力をそのまま使わず、必ず手を加える: 少なくとも1文に1箇所は自分の判断で修正する
- AIの出力はそのまま貼らず、必ず自分が別案を1つ書いてから比較する: 自分案とAI案を並べ、最終稿は混ぜて作る
- 「なぜこの表現を選んだか」を一言メモしておく: 選択の理由を意識することで、受動的な採用を防ぐ
プロンプト例:自分の文体との一貫性チェック
Abstractの最終チェック¶
Abstractは論文の「顔」であり、多くの読者が最初に読む(そして、そこだけ読んで終わる場合もある)セクションです。2.1 で述べたように、通常は最後に書くセクションです。本文の推敲が完了した後に、Abstractを本文の最終版と突き合わせて確認してください。
プロンプト例:Abstractと本文の整合性チェック
以下のAbstractと論文本文を比較し、整合性を確認してください。
確認項目:
(1) Abstractの5要素(Background/Purpose/Methods/Results/Conclusion)が
すべて含まれているか
(2) Abstractの記述が本文の内容と一致しているか
(特に数値、主要な結果、結論)
(3) Abstractに本文にない情報(新しい主張)が混入していないか
(4) 語数は投稿規定の範囲内か(目安: [語数]語以内)
Abstract:
[ここにAbstract]
論文本文(各セクションの要約):
- Introduction: [要約]
- Methods: [要約]
- Results: [要約]
- Discussion: [要約]
投稿前の最終チェックリスト¶
論文の投稿前に確認すべき項目をまとめたチェックリストです。セクション固有の詳細なチェックは各ページを参照してください。
内容・構成¶
- タイトルが研究内容を正確に反映している
- Abstractが規定語数以内で、5要素(Background/Purpose/Methods/Results/Conclusion)を含む
- Abstractと本文の数値・結論が一致している
- キーワードが適切に選定されている
- IntroductionのRQにResults・Discussionで回答している
- DiscussionにLimitationsが含まれている
- Conclusionに新しい議論が含まれていない
文体・表記¶
- 時制がセクションごとの慣習に従っている(→ 2.3)
- ヘッジ表現が適切(過剰でも不足でもない)
- 英米表記が統一されている(-ize/-ise、-or/-our等)
- 略語は初出時にフルスペルで定義されている
- 数字の表記が統一されている(文頭のスペルアウト等)
- セクション間で用語が統一されている
図表・参考文献¶
- 図表番号が本文中の参照と一致している
- 図表のキャプションが適切についている(→ 3.3)
- 参考文献が投稿先のスタイルに準拠している
- 本文中の引用がすべて参考文献リストに含まれている(逆も確認)
- DOIが付与されている文献にはDOIが記載されている
- ソフトウェアの引用がReferencesに含まれている(→ 3.3)
投稿規定¶
- 語数/ページ数が規定以内
- フォント・マージン・行間隔が指定通り
- 著者情報の匿名化(blind reviewの場合)
- カバーレターの準備
- AI利用の申告文の準備(→ 1.3 & 4.3)
- Data Availability Statement の記載(→ 3.3)
プロンプト例:投稿前の総合チェック
カバーレターと査読対応¶
カバーレターの書き方、査読コメントへの対応(Response to Reviewers)の形式・テンプレート・プロンプト例については、投稿準備の一環として 4.3 投稿準備と査読対応 にまとめています。
- → カバーレターの書き方(要素一覧、プロンプト例、差別化のコツ)
- → 査読コメントへの対応(基本原則、状況別テンプレート、プロンプト例)