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3.3 Methodsの執筆

このページで学ぶこと

  • 実験設定や手法を英語で記述するコツ
  • 技術的内容をAIで自然言語化するプロンプト
  • Methodsのサブセクション構成と参加者記述のテンプレート
  • よくある曖昧表現とその改善
  • ソフトウェア・ツールの引用慣習
  • 統計報告の書式(APA第7版)
  • 図表との整合性を保つ方法
  • AIを質的データ分析に用いる際の注意点
  • Data Availability Statement の書き方

このページの位置づけ

Methodsセクションの役割(再現可能性の保証)と典型的なムーブパターンについては 2.1 IMRaD構成パターン2.2 コーパスを用いた定型表現の確認 で解説しています。本ページでは、それらの知識を前提に、実験設定や手法の記述をAIで自然な英文に変換する実践的なワークフローを扱います。

手法記述の基本原則

Methodsセクションの最重要原則は、他の研究者が同じ研究を再現できるだけの情報を提供することです。具体的には以下を含めます。

  • 具体的な数値: 参加者数、期間、回数、所要時間など
  • 時系列の手順: 何を、どの順番で行ったか
  • ツール・バージョン情報: ソフトウェア名、バージョン番号、設定パラメータ
  • 倫理審査の情報: IRB承認番号、インフォームドコンセントの取得方法

時制は実施済みの手順を記述するため、基本的に過去形で書きます(→ 2.3 セクション別の時制ルール)。

Methodsのサブセクション構成

Methodsは通常、以下のサブセクションで構成します。分野やジャーナルによって名称は異なりますが、含める情報はほぼ共通です。

サブセクション 記述する内容 注意点
Participants 人数、年齢、性別、専門、選定基準、除外基準 倫理審査の承認を明記
Materials / Instruments 使用した質問紙、テスト、ソフトウェア、機器 バージョン番号・信頼性係数を含める
Procedure データ収集の手順を時系列で 再現に必要な詳細さ
Data Analysis 分析手法と使用したソフトウェア 前提条件の検証方法も記述

情報処理分野の場合

情報処理・CS系の論文では、Methodsの代わりに Proposed MethodSystem Design というセクション名が使われることが多いです。この場合は、アルゴリズムの説明やシステム構成図の記述が中心になりますが、再現可能な詳細さで書くという原則は同じです。

参加者の記述テンプレート

参加者情報の記述は定型的なので、テンプレートを使うと効率的です。

参加者記述の英文テンプレート

A total of [N] participants ([N] males, [N] females; M age = [X] years, 
SD = [X]) took part in this study. They were [所属/属性の説明]. 
Participants were recruited through [方法]. 
The inclusion criteria were [基準]. [N] participants were excluded 
because [理由]. This study was approved by [倫理審査機関名] 
(approval number: [番号]). All participants provided written 
informed consent prior to data collection.

プロンプト例:参加者情報の英語化

以下の参加者情報を、英語論文のMethodsセクションのParticipantsとして
自然な英文にしてください。
- 過去形・受動態を中心に
- 倫理審査の記述を含める
- 数値は変更しないでください

[ここに参加者情報の箇条書き(日本語)]

AIによる英語化

研究者はしばしば、実験手順をメモ書きや箇条書きで記録しています。これを自然な英語の段落に変換するのは、AIが最も力を発揮する場面の一つです。

プロンプト例:箇条書きからMethodsへ

以下の実験設定をIMRaD構成のMethodsセクションとして、
自然な英文にまとめてください。
- 過去形・受動態を中心に
- 手順が再現可能な詳細さで
- 数値や条件は変更しないでください
- 新しい情報は追加しないでください

[ここに箇条書きの実験設定]

プロンプト例:既存の記述を明確化

以下のMethodsの記述を、より明確で再現可能な英文に改善してください。
- 曖昧な表現を具体的にする提案をしてください
- ただし、具体的な数値が不明な場合は [要追記] と示してください
- 内容を変えたり追加したりしないでください

[ここにMethods]

よくある曖昧表現とその改善

日本語話者が書くMethodsでは、以下のような曖昧な表現がよく見られます。「他の研究者がこの記述だけで実験を再現できるか」が判断基準です。

Before / After の具体例

Before(曖昧):

Several participants were excluded. The test was administered and participants were given enough time. Data were analyzed statistically using the software.

After(具体的):

Three participants were excluded due to incomplete responses. The test was administered individually in a quiet room during regular class hours. Participants were given 30 minutes to complete the task. Data were analyzed using a paired-samples t-test in R (version 4.3.1; R Core Team, 2023).

曖昧表現の一覧と改善パターン

曖昧な表現 なぜ問題か 改善例
Several participants were excluded. 人数が不明 Three participants were excluded due to incomplete responses.
The test was administered. いつ・どこで・どのようにか不明 The test was administered individually in a quiet room during regular class hours.
Data were analyzed statistically. どの手法かわからない Data were analyzed using a paired-samples t-test.
The software was used for analysis. ソフトウェア名が不明 R (version 4.3.1; R Core Team, 2023) was used for all statistical analyses.
Participants were given enough time. 「enough」は主観的 Participants were given 30 minutes to complete the task.
A questionnaire was used. 何項目・何件法か不明 A 20-item questionnaire using a 6-point Likert scale was used.

プロンプト例:Methodsの曖昧表現の検出

以下のMethodsセクションに含まれる曖昧な表現を指摘してください。
「曖昧」の判断基準は「別の研究者がこの記述だけで実験を再現できるか」です。

各指摘について:
(1) 該当箇所の引用
(2) なぜ曖昧か(何の情報が不足しているか)
(3) 具体的にすべき内容の例([要追記:○○]の形式で)

[ここにMethodsを貼り付ける]

ソフトウェア・ツールの引用慣習

Methodsでは、使用したソフトウェアやツールを正確に引用する必要があります。分野やジャーナルによって書式は異なりますが、以下が一般的なパターンです。

本文中での記述パターン

ソフトウェア 記述例
R All analyses were conducted using R (version 4.3.1; R Core Team, 2023).
R パッケージ Linear mixed-effects models were fitted using the lme4 package (version 1.1-35; Bates et al., 2015) in R.
Python Data preprocessing was performed using Python (version 3.11; Van Rossum & Drake, 2023).
SPSS Statistical analyses were performed using IBM SPSS Statistics (version 29.0; IBM Corp., 2023).
Excel Descriptive statistics were calculated using Microsoft Excel (version 16.0).
質問紙・テスト Vocabulary size was measured using the Vocabulary Size Test (Nation & Beglar, 2007).

引用の注意点

  • バージョン番号を必ず含める: ソフトウェアのバージョンによって結果が異なる場合がある
  • References にも記載する: 本文中で引用したソフトウェアは、参考文献リストにも含める
  • URL の記載: オープンソースソフトウェアの場合、入手先のURLを含めると親切

プロンプト例:ソフトウェア引用の書式チェック

以下のMethodsセクションで言及されているソフトウェア・ツールについて、
引用が適切かチェックしてください。

確認項目:
(1) バージョン番号が明記されているか
(2) 開発者/著者の情報があるか
(3) Referencesに対応する項目があるべきか(ある場合は書式例を提示)

[ここにMethodsを貼り付ける]

統計報告の書式(APA第7版)

統計結果の報告には分野ごとの書式がありますが、社会科学系ではAPA(American Psychological Association)第7版の書式が広く使われています。

主要な統計量の報告書式

分析 報告書式
t検定 t(df) = 値, p = 値, d = 値 t(28) = 2.45, p = .021, d = 0.65
分散分析 F(df1, df2) = 値, p = 値, η² = 値 F(2, 57) = 4.12, p = .022, η² = .13
相関 r(df) = 値, p = 値 r(48) = .42, p < .001
カイ二乗検定 χ²(df, N = 値) = 値, p = 値 χ²(2, N = 120) = 8.34, p = .015

報告の注意点

  • p 値は小数点の前にゼロをつけない(○ p = .021、× p = 0.021)
  • p < .001 の場合は正確な値を示さず p < .001 と書く
  • 効果量(d, η², r など)は必ず報告する
  • 統計記号はイタリック体にする(t, F, p, r, N など)
  • 検定統計量は小数点以下2桁に丸める

プロンプト例:統計報告の書式チェック

以下のResultsセクションに含まれる統計報告を、
APA第7版の書式に照らしてチェックしてください。

確認項目:
(1) 統計記号のイタリック体(テキスト上では *記号* で表現)
(2) p値の表記(小数点前のゼロ不要、p < .001の扱い)
(3) 効果量の報告の有無
(4) 自由度の記載
(5) 小数点以下の桁数の統一

問題がある箇所を指摘し、正しい書式を示してください。

[ここにResultsを貼り付ける]

情報処理分野の統計報告

CS分野ではAPAスタイルが求められない場合も多いですが、効果量の報告や統計記号のイタリック体は国際的な慣習として守っておくと、査読者の印象が良くなります。投稿先のテンプレートやスタイルガイドを必ず確認してください。

図表との整合性

Methodsで記述した手順と、Resultsで示す図表は整合している必要があります。

以下のMethodsの記述と、Resultsの図表キャプションを比較して、
不整合がないか確認してください。
- 変数名の表記ゆれ
- 分析手法とグラフの種類の対応
- 参加者数の一貫性

Methods:
[ここにMethods]

図表キャプション:
[ここにキャプション一覧]

図表キャプションの書き方

図表のキャプションにも書き方の慣習があります。

要素 図(Figure) 表(Table)
番号の位置 図の下(Figure 1 表の上(Table 1
タイトル イタリック体で簡潔に イタリック体で簡潔に
注記 図の下に Note. で追記 表の下に Note. で追記

プロンプト例:図表キャプションの生成

以下の分析結果の図/表について、APA第7版に準拠した
キャプション(タイトル+注記)を作成してください。

条件:
- Figure/Table番号は[番号]
- タイトルは内容を簡潔に表現(1文以内)
- 略語がある場合は注記で説明
- 有意水準の表記(*p < .05, **p < .01, ***p < .001)

図/表の内容:
[ここに図表の内容を説明]

図表を用いた記述サンプルの生成

生成AIはテキストだけでなく画像も入力として受け付けるため、FigureやTableのスクリーンショットをAIに直接見せて、本文中での言及の仕方や結果の記述サンプルを生成させることもできます。この方法は、「この図についてどう書けばよいか」が思い浮かばないときに特に有効です。

プロンプト例:図表を見せて記述サンプルを生成

    添付した図(Figure 1)は、[実験の簡単な説明]の結果を示しています。

    この図の内容について、Resultsセクションで言及する英文の
    サンプルを2〜3パターン書いてください。
    - 過去形で
    - 図の番号への参照(e.g., "As shown in Figure 1, ...")を含める
    - 具体的な数値は図から読み取れる範囲で
    - 解釈や考察は含めず、事実の報告にとどめる

図表を見せる際のコツ

  • 図表の画像だけでなく、研究の目的や変数の説明といった前後の文脈も一緒に伝えると、より適切な記述が生成される
  • 複雑な表の場合は、画像に加えて表の構造をテキストでも説明すると精度が上がる
  • 生成されたサンプルはあくまで「書き方の参考」として使い、そのまま使わない。また、数値や解釈の正確性は必ず自分で確認する

AIを質的データ分析に用いる際の注意点

自由記述データのコーディングや分類に生成AIを活用するケースが増えています。しかし、現時点では生成AIによる自動コーディングの精度は十分とは言えません。

Mizumoto & Teng (2025) は、複数のLLM(GPT-4o, GPT-o1, GPT-o3 mini, Llama, Gemini, Claude, DeepSeek)を用いて学習者の自由記述回答を分類した結果、Cohen's Kappa係数が概ね0.4〜0.7の範囲にとどまり、人間のコーディングと完全には一致しないことを報告しています。

AIコーディングの運用指針

  • 生成AIは「一次候補アノテータ」として利用し、最終確認は人間が行う二段階運用が現実的
  • ロールプレイやテスト素材の一次生成など、「素材生成」としての利用は有効
  • 研究で生成AIをコーディング目的で使用する場合は、その手順と限界をMethodsに明記する

質的データのテーマ抽出には、3.2 で紹介した Attention も活用できます。ただし、上述のとおり最終的な分類判断は人間が確認する必要があります。

Data Availability Statement の書き方

近年、多くのジャーナルがData Availability Statement(データの利用可能性に関する声明)の記載を求めています。これはMethodsまたは論文末尾に記載します。

典型的なパターン

状況 記述例
データを公開する場合 The dataset generated during the current study is available in the [リポジトリ名] repository, [URL or DOI].
合理的な要求に応じて提供する場合 The data that support the findings of this study are available from the corresponding author upon reasonable request.
倫理的理由で非公開の場合 The data are not publicly available due to privacy/ethical restrictions but are available from the corresponding author on reasonable request.
既存の公開データを使用した場合 This study used publicly available data from [データソース名] ([URL or DOI]).

プロンプト例:Data Availability Statementの作成

以下の研究の概要に基づいて、Data Availability Statementを
英語で作成してください。

条件:
- 投稿先: [ジャーナル名]
- データの公開可否: [公開 / 要求に応じて提供 / 非公開]
- 理由: [該当する理由]
- リポジトリ(公開の場合): [リポジトリ名]

[ここに研究の概要]

データ公開の義務化とリポジトリ

2025年度より、公的助成を受けた研究論文および根拠データについて、「即時オープンアクセス(OA)の義務化」が開始されました。この義務化は、内閣府の統合イノベーション戦略推進会議が策定した「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」に基づく、国の方針として決定されたものです。これにより、機関リポジトリ(各大学等)や分野別データリポジトリでの公開が必須となり、データを誰でも無料でアクセス可能な状態にする必要があります。

分野を問わず利用可能な汎用リポジトリとして ZenodofigshareOSF (Open Science Framework) があります。分野固有のリポジトリ(応用言語学系なら IRIS など)がある場合は、そちらの利用も検討してください。

再現可能な研究実践の詳細(リポジトリへの共有方法、R Markdownによる分析コード・結果の一体化、合成データの作成手順など)については、In'nami et al. (2022) を参照してください。

Methodsセクションのセルフチェックリスト

Methodsの執筆が完了したら、以下のチェックリストで確認してください。このチェックリストはMethodsに特化したものです(論文全体の投稿前チェックリストは 3.5 推敲テクニック を参照)。

  • 参加者の人数・属性が具体的に記述されている
  • 倫理審査の承認番号とインフォームドコンセントの記述がある
  • 使用した材料・ツールのバージョン情報がある
  • ソフトウェアの引用がReferencesにも含まれている
  • 手順が時系列で、他の研究者が再現できる詳細さで書かれている
  • 分析手法が具体的に記述され、使用したソフトウェアが明記されている
  • 全体が過去形で一貫している
  • Resultsの図表で報告する変数名と一致している
  • 曖昧な表現(several, some, enough, various等)が残っていない
  • Data Availability Statement が含まれている(ジャーナルが求める場合)

プロンプト例:Methodsの包括的チェック

以下のMethodsセクションを、上記のチェックリスト10項目に沿って
点検してください。各項目について「OK」または「要改善」を判定し、
「要改善」の場合は具体的な問題箇所と改善の方向性を示してください。
英文の修正は不要です。

[ここにMethodsを貼り付ける]