3.2 イントロ・背景の執筆¶
このページで学ぶこと
- Introductionの生成ワークフロー(日本語骨格→英語化→構造確認→洗練)
- 先行研究整理を支援するAIツールの活用と限界
- 先行研究の要約と統合(synthesis)の技法
- ギャップの説得力を高める方法
- リサーチクエスチョン(RQ)の英語表現
- Introductionの長さの調整
- 生成結果の評価と修正
このページの位置づけ
Introductionの構成要素(漏斗型の流れ)とCARSモデルの3つのムーブについては 2.1 IMRaD構成パターン と 2.2 コーパスを用いた定型表現の確認 で解説しています。本ページでは、それらの知識を前提に、AIを使ってIntroductionを実際に書き上げるワークフローを扱います。
Introductionの生成ワークフロー¶
Introduction の生成は、2.2 CARSモデル の3つのムーブに対応させながら進めると、構造が明確になります。
| ワークフローのステップ | 対応するCARSムーブ | 作業内容 |
|---|---|---|
| ステップ1: 日本語で骨格を作る | Move 1〜3 すべて | 4要素を日本語で1〜2文ずつ |
| ステップ2: AIに英語化を依頼する | — | 骨格を学術英語の段落に変換 |
| ステップ3: 構造を確認させる | Move 1〜3 の充足確認 | 4要素の有無と順序をチェック |
| ステップ4: ギャップの説得力を強化する | Move 2 の深化 | ギャップの具体性と論理的接続 |
| ステップ5: 先行研究を統合する | Move 1〜2 の精緻化 | 個別列挙→統合的記述 |
以下、各ステップを順に解説します。
先行研究の整理を支援するAIツール¶
ステップ1(日本語骨格の作成)に入る前に、関連する先行研究を効率的に整理しておくことが重要です。ここでは、その工程を支援するツールを紹介します。
NotebookLM による文献の読解・要約¶
Googleの NotebookLM は、複数のPDF論文やファイルをソースとしてアップロードし、それらに対してチャット形式で質問・要約・比較ができるツールです。
さらに、Slide Deck(スライド)の自動生成に加えて、Data Tables(比較表)や、ナレーション付きの動画(Video Overviews)、音声解説(Audio Overviews)も作成できます。文献整理を効率化したいときに便利です。
NotebookLM の活用例
- 複数の論文を読み込ませ、「What are the benefits of using ChatGPT for language learning and teaching?」のように横断的な質問をする
- 共通するテーマや繰り返し登場する主張を抽出する(パターン認識)
- 先行研究で未解明な領域(ギャップ)を特定する
- [研究以外でも] 大学や学会の規定文書を読み込ませて、ガイドラインの要点を確認する
NotebookLMは以下のように回答にソース番号を付与するため、どの論文に基づく情報かを追跡しやすい点が特徴です。

PDF ThemeSort:論文のテーマ別分類¶
PDF ThemeSort は、複数のPDF論文をテーマ別に自動分類するツールです。
- AIが自動でテーマを決定する方法と、ユーザーがテーマを指定する方法の2種類を選択可能
- 高速モードと高品質モードを切り替え可能
- Literature Reviewの構造を考える際に、どの論文をどのテーマで議論するかの見通しを立てるのに有効
- Gemini APIを利用(APIキーが必要)
BiblioSeek:PDF文書の解析・検索・要約¶
BiblioSeek は、複数のPDF論文をアップロードし、AIを用いて文書の解析・検索・要約を行うウェブアプリです。
- 日本語・英語の切り替えに対応
- アップロードしたPDF群に対して横断的に検索・質問が可能
- Gemini APIを利用(APIキーが必要)
PDF ThemeSort と BiblioSeek の使い分け
使い分けの感覚としては、Literature Review の構造を組む前段で「まず論文群を束ねて整理したい。フォルダも分けたい」という場合には ThemeSort が強みを発揮します。
一方、ある程度集めた PDF 群に対して、「この概念はどこでどのように定義されているか」「比較結果は何か」といった点を、横断検索や質問応答で掘り下げたい場合には BiblioSeek が向いています。
その他の関連ツール¶
- Attention: 自由記述のテキストデータからテーマを抽出・分析するAI駆動型ツール。研究の背景や動機を整理する際の補助として使える
- PDF自動リネームツール: 論文PDFのDOIを検出し、「著者 – 年 – タイトル.pdf」形式で自動リネームするユーティリティツール
AIツールの限界を理解する¶
これらのツールは文献整理の効率を大幅に向上させますが、以下の限界を常に意識してください。
| できること | できないこと・注意が必要なこと |
|---|---|
| 論文の要約・比較 | 要約の正確性の保証(必ず原文で確認) |
| テーマごとの分類 | 分類基準の妥当性の判断(研究者の専門知識が必要) |
| ギャップの候補の提示 | ギャップの学術的重要性の評価(分野の文脈を知る必要がある) |
| パターンの抽出 | 見落としている重要な論文の発見(網羅的な検索は別途必要) |
論文検索には専用ツールを使う
ChatGPT などの汎用生成AIで論文検索を行うと、アクセス可能な論文が優先されてしまったり(ハゲタカ・ジャーナル[粗悪学術誌]を含む)、Literature Review に必要な「深さ」が不足したり、架空の文献情報が生成されたりすることがあります。
論文検索には、(ソースの提示が可能な)有料版モデルや、Perplexity、Elicit、Consensus などの専用ツールを併用することを推奨します。
なお、2026年2月には Google Scholar に "Scholar Labs" という機能が追加され、生成AIによる論文検索が可能になりました。これはかなり期待できると思います。
| ツール | 用途 | URL | 備考 |
|---|---|---|---|
| Perplexity | AI検索エンジン | https://www.perplexity.ai | 出典付きの回答 |
| Elicit | AI活用の論文検索・要約 | https://elicit.org | 研究質問から文献を検索 |
| Consensus | 学術論文のエビデンス検索 | https://consensus.app | Yes/Noの回答形式で知見を整理 |
| SciSpace | 論文読解支援・文献探索(PDF対話) | https://scispace.com/ | PDFに質問して引用付きで要点確認 |
| Connected Papers | 関連論文の可視化 | https://www.connectedpapers.com | 視覚的な文献マップ |
| Research Rabbit | 文献のレコメンデーション | https://www.researchrabbit.ai | Zotero連携あり |
| PaperDive | 文献のレコメンデーション | https://www.paperdive.app/ | AIによる1行要約付きで次に読むべき論文がわかる |
論文検索ツールの使い分け(目的別)
- 広く候補を集める(キーワード起点): Google Scholar(まず基礎となる文献を見つける)
- 関連研究を芋づる式に発見する(引用ネットワーク): Connected Papers / Research Rabbit
※「核となる数本(seed papers)」があると強い - 論文の要点を素早く把握する(根拠つき要約): Consensus(回答に出典が付く設計)
-
表で整理して“深掘り”する(比較・抽出): Elicit(複数論文から情報抽出テーブルを作る)
※注意: どのツールも取りこぼしと誤要約があり得るので、最終的な判断は必ず原文(抄録・本文・方法)で確認する
文献整理からIntroduction執筆への流れ
- PDF ThemeSort で収集した論文をテーマ別に分類する
- BiblioSeek や NotebookLM で各テーマの要点を横断的に把握する
- テーマごとの要点を日本語でメモにまとめる
- そのメモをもとに、下記のステップ1〜5でIntroductionを生成する
ステップ1: 日本語で骨格を作る¶
CARSモデルの3ムーブに対応する以下の4点を、日本語で1〜2文ずつ書きます。
| 要素 | 対応するCARSムーブ | 書く内容 |
|---|---|---|
| この分野で何が重要か | Move 1: 研究領域の確立 | 研究分野の社会的・学術的重要性 |
| 先行研究で何がわかっているか | Move 1: 研究領域の確立 | 主要な知見の概観 |
| 何がまだ不明か(ギャップ) | Move 2: ニッチの確立 | 先行研究の課題・未解明の点 |
| 本研究は何をするか | Move 3: ニッチの占拠 | 研究の目的・アプローチ |
骨格の段階で具体的に書く
この段階で「語彙学習は重要である」のような一般論にとどめると、英語化の後も抽象的なままになります。「日本人大学生の受容語彙サイズと産出語彙サイズの乖離」のように、自分の研究に固有の情報を含めてください。
日本語骨格の具体例¶
以下は、応用言語学分野の研究を想定した骨格の例です。
(1) 重要性: 語彙知識は第二言語の読解力・聴解力と強く関連しており、
語彙習得研究は応用言語学の中心的なテーマの一つである。
(2) 先行研究: これまでの研究では、語彙サイズテスト(VST)を用いて
受容語彙サイズを測定する研究が多く蓄積されている。
(3) ギャップ: しかし、受容語彙と産出語彙の乖離がどの習熟度段階で
顕著になるかについては、十分に検討されていない。
(4) 本研究: 本研究は、日本人大学生200名を対象に、受容・産出語彙サイズの
関係を習熟度別に分析する。
ステップ2: AIに英語化を依頼する¶
以下の日本語は、英語論文のIntroductionの骨格です。
この流れを維持したまま、自然な学術英語の段落にしてください。
- 主語を短く、動詞を早めに出す文体で
- 適切なヘッジ表現を含めて
- 新しい主張や事実は追加しないでください
- 具体的な文献引用(著者名、年)は入れないでください
[ここに日本語の骨格]
文献情報に注意
AIが勝手に「Smith (2020)」のような架空の引用を挿入することがあります。プロンプトで明示的に禁止するか、生成後に必ず確認してください。実際の引用は、自分で先行研究を確認したうえで手動で追加します。
ステップ3: 構造を確認させる¶
以下のIntroductionが、(1) 分野の重要性、(2) 先行研究の概観、
(3) ギャップの指摘、(4) 本研究の目的 の4要素をこの順番で含んでいるか
確認してください。欠けている要素や順序の問題があれば指摘してください。
内容の追加は不要です。
[ここにIntroduction]
ステップ4: ギャップの説得力を強化する¶
Introductionで最も重要なのは「なぜこの研究が必要なのか」を読者に納得させることです。ギャップの提示が弱いと、論文全体の意義が揺らぎます。
よくあるギャップの弱さのパターン¶
| 弱いギャップの書き方 | なぜ弱いか | 改善の方向 |
|---|---|---|
| Few studies have examined X. | 「少ない」だけでは研究の必要性が伝わらない | X を調べることで何がわかるのか、なぜ重要なのかを加える |
| More research is needed. | あらゆる研究に当てはまる万能フレーズ | 何についての 研究が、なぜ 必要なのかを具体化する |
| This area is under-researched. | 研究されていない=重要とは限らない | 研究されていないことの結果として何が問題かを示す |
プロンプト例:ギャップの説得力チェック
ステップ5: 先行研究の統合(Synthesis)¶
Introductionでは、個々の先行研究をただ並べるのではなく、テーマごとに統合(synthesize)して議論する必要があります。 (参考:「劣等戦隊・先行研究羅列マン」にご用心!?)
個別列挙 vs. 統合¶
| 書き方 | 例 | 評価 |
|---|---|---|
| 個別列挙型(避けるべき) | Smith (2020) found X. Jones (2021) found Y. Lee (2022) found Z. | ×:読者が自分で関連を読み取る必要がある |
| 統合型(推奨) | Several studies have found that X is related to Y (Smith, 2020; Jones, 2021), although the effect may depend on Z (Lee, 2022). | ○:著者がテーマに沿って整理している |
個別列挙型は、2.2 のReporting Verbs で触れた said / found の単調な繰り返しにもつながりやすいため、意識して避けてください。
プロンプト例:個別列挙を統合に変換する
先行研究を整理する枠組み¶
複数の先行研究を統合するための前段階として、以下の枠組みで日本語メモを作っておくと、統合的なIntroductionが書きやすくなります。
プロンプト例:先行研究の整理支援
リサーチクエスチョン(RQ)の英語表現¶
Introductionの最後にリサーチクエスチョン(RQ)を明示する場合、英語の定型表現を知っておくと便利です。
RQの導入表現¶
| パターン | 例 |
|---|---|
| 直接提示 | The following research questions guided this study: |
| 目的から導く | To address this gap, the present study investigated the following research questions: |
| 仮説として提示 | Based on the literature, the following hypotheses were formulated: |
RQの書き方のポイント¶
- RQは疑問文で書く(To what extent does X affect Y?)
- 仮説は平叙文で書く(It was hypothesized that X would significantly affect Y.)
- 変数は具体的に記述する(「学習」ではなく「語彙テストの成績」のように)
- 測定可能・検証可能な形にする
プロンプト例:RQの英語表現チェック
Introductionの長さの調整¶
2.1 で示したように、Introductionは論文全体の約20〜25%(6,000語論文で1,200〜1,500語)が目安です。AI生成の文章は短すぎたり長すぎたりする場合があるため、長さの調整が必要になることがあります。
短すぎる場合¶
AIが生成したIntroductionが短い場合、多くの場合は先行研究の概観が不足しています。以下を確認してください。
- Move 1(研究領域の確立)に十分な背景情報があるか
- 先行研究が統合的に記述されているか(個別列挙だと短くなりがち)
- ギャップの説明に具体性があるか
プロンプト例:Introductionの補強箇所の特定
長すぎる場合¶
一方で、AIが冗長な文章を生成したり、先行研究を詳述しすぎて長くなる場合もあります。
プロンプト例:Introductionの圧縮
生成結果の評価と修正¶
AIが生成したIntroductionは、以下の観点で評価します。
| 観点 | 確認内容 | よくある問題 |
|---|---|---|
| 内容の正確性 | 自分が伝えたい内容と一致しているか | AIが「もっともらしい主張」を勝手に追加している |
| 論理の流れ | 漏斗型の構成が保たれているか | Move 2(ギャップ)が突然現れ、Move 1との接続が弱い |
| 具体性 | 抽象的すぎないか | 「近年注目されている」のような一般論で終わっている |
| ギャップの明確さ | 「なぜこの研究が必要か」が伝わるか | ギャップと研究目的の論理的接続が不明確 |
| 文献引用の正当性 | 架空の引用が含まれていないか | AIが存在しない著者名・年を挿入している |
AIの出力が抽象的すぎる場合
AIはしばしば「一般的にもっともらしいが、具体性に欠ける」文章を生成します。自分の研究の具体的なデータ、対象、手法を追記して、固有性を高めてください。