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3.1 英文洗練のプロンプト設計

このページで学ぶこと

  • 既存の英文をAIで洗練するためのプロンプト戦略
  • 「日本語で主張を固定してから英語にする」アプローチ
  • プロンプトの段階的な精緻化
  • AI出力の比較評価の方法
  • 洗練の「やめどき」の判断基準

このページの位置づけ

2.3 文体・時制・論理展開とAIプロンプト では、学術英語の文体ルール、プロンプト設計の原則、校正テンプレートを扱いました。本ページでは、それらの原則を前提に、英文を段階的に洗練する実践的なワークフローに焦点を当てます。プロンプト設計の基本(5W1H、役割の付与、few-shot prompting など)や校正プロンプトのテンプレートは 2.3 を参照してください。

基本原則:AIに「答え」を作らせない

生成AIは「英語力を伸ばす道具」にも「英語力を代替してしまう道具」にもなります。伸ばす方向に寄せるコツは、生成AIに "答えを作らせる" のではなく "自分の思考と表現を増幅する" 役に固定することです。

1.2 学術的誠実性と剽窃防止 で紹介した Augmented Competence のモデルを思い出してください。AIによる洗練は、自分の受容能力の範囲内で行うことが前提です。AIが提案した表現を「なぜこれが良いのか」「この表現を自分は理解できるか」と問い直せなければ、それは能力の拡張ではなく代替になってしまいます。

まず前提として、生成AIを使うときの最小限のルールを決めておくと失敗しにくいです。

自分用ルールの例

「構成相談、例文の提示、言い換え提案、文法説明、チェックはOK。内容そのものの捏造、根拠のない引用生成、提出物の丸ごと生成はNG。」

先に日本語で主張を固定してから英語にする

英語で迷っていると、AIが作った英文に流されやすくなります。そこで、先に日本語で "言いたいこと" を短く固めます。このアプローチは 2.3 の前編集(pre-editing) の実践版です。

手順:

  1. 結論一文と理由二点を日本語で書く
  2. AIに変換を依頼する
  3. 逸脱チェックをAIにさせる

ステップ2のプロンプト例:

この日本語の主張を、CEFR B2くらいの自然な英語で、主語と動詞が明確な短めの文で書いてください。
新しい内容は追加しないでください。

[日本語テキスト]

ステップ3のプロンプト例:

この英文が、元の日本語から逸脱している箇所を箇条書きで指摘してください。

元の日本語:[日本語テキスト]
英文:[生成された英文]

これで「内容は自分、表現は補助」の形が守れます。

英語レベルの指定と段階的な洗練

一度のプロンプトで完璧な英文を期待するのではなく、段階を踏んで品質を上げていく方法が効果的です。

3段階の洗練プロセス

段階 目的 プロンプトの焦点
第1段階:内容の英語化 日本語の内容を英語にする 意味の正確さ、情報の過不足
第2段階:文体の調整 学術英語の文体に整える 主語の長さ、ヘッジ、時制、受動態/能動態
第3段階:表現の磨き上げ より自然で洗練された英語にする コロケーション、語彙の選択、文のリズム

一度に全部やらせない

「この日本語を、自然な学術英語で、ヘッジも適切に、主語も短く書いてください」のように条件を盛り込みすぎると、AIの出力が不安定になります。1回のプロンプトでは1〜2の改善点に集中させてください。

プロンプト例:段階的な洗練(第1段階→第2段階)

【第1段階】
以下の日本語を、意味を正確に伝える英文にしてください。
文体の美しさよりも、内容の正確さを優先してください。
新しい内容は追加しないでください。

[日本語テキスト]
【第2段階】
以下の英文を、学術英語の文体に調整してください。
改善点:
- 主語が長い場合は短くする
- 適切なヘッジ表現を加える(ただし過剰にしない)
- Methodsセクションのため、過去形・受動態を基本とする
意味は変えないでください。変更した箇所は太字(**…**)にしてください。

[第1段階で生成された英文]

第3段階で意識すること

第3段階の「表現の磨き上げ」では、自分の分野のコーパスや先行論文と照らし合わせる作業が重要になります(→ 2.2 コーパスを用いた定型表現の確認)。AIが提案する表現が自分の分野で実際に使われているかどうかは、Google Scholar での検索や AntConc での確認を併用してください。

語彙とコロケーションを「自分のリスト」にする

生成AIを「フレーズ供給」で終わらせず、反復で自分のものにする方法です。

この段落で、学術英語として頻出な言い回しに置き換えられる箇所を3つ提案してください。
各提案について、使う場面と注意点を一言で。

[ここに段落]

提案された中から "自分が次も使う" ものだけを10個程度のマイフレーズ集に入れ、次回の執筆ではその中から最低2個を使う縛りをかけます。

プロンプト例:セクション別のマイフレーズ集を作る

以下の英文から、他の論文でも再利用できる汎用的な学術フレーズを
セクション別に抽出してください。

分類:
- Introduction用(背景、ギャップ、目的の提示)
- Methods用(手順、分析の記述)
- Results用(結果の報告、図表への言及)
- Discussion用(解釈、先行研究との比較、限界)

各カテゴリから3〜5個、使用場面の一言説明つきで。

[ここに自分の論文原稿]

英語と日本語を混ぜて書く方法

私が英語論文の執筆や査読でよく用いている方法は、以下のとおりです。

  • 日本語と英語を混ぜながら、とにかく書き進める(英語の単語やフレーズは、できるだけ分野で一般的に使われている、すでに知っているものを用いる)。
  • 生成AIを用いて、まず正しい英語に直す。
    I am writing an academic paper. Please translate the folowing sentences written in Japanese into natural English.
  • 英語にした文章に対して、さらに生成AIに以下のように指示すると、英語の質が向上し、具体例も追加されるため、それを踏まえて再度校正する。
    Proofread this, significantly improving clarity and flow.
  • 文脈が明確な状態で処理できるため、機械翻訳ツールを使うよりも精度が高く、専門性の高い英語になる。

よくあるプロンプトの失敗パターンと改善

2.3 のプロンプト設計原則 を踏まえたうえで、英文洗練の場面でよくある失敗パターンを具体的に示します。

失敗パターン なぜ問題か 改善例
「この英文を直してください」 何を直すか不明。AIが全面的に書き直してしまう 「文法と語法の問題のみ指摘してください。文体や語彙の変更は不要です」
「完璧な英語にしてください」 「完璧」の基準がない。過剰にフォーマルになる場合がある 「投稿先ジャーナルの読者(CS分野の研究者)にとって自然な英語にしてください」
「この文章を英語にしてください」 直訳になる可能性。セクションの慣習が反映されない 「以下をMethodsセクションの一部として、過去形・受動態中心の学術英語にしてください」
条件を10個以上並べる AIが一部の条件を無視する 条件は5つ以内に絞り、優先度の高いものを先に書く

AI出力の比較評価

同じプロンプトでも、モデルやタイミングによって異なる出力が得られます。複数の出力を比較して最良のものを選ぶ方法を身につけると、品質が安定します。

比較評価の観点

観点 確認内容 判断基準
正確性 元の内容から逸脱していないか 日本語の原文と突き合わせる
自然さ 学術英語として自然か 分野の論文と見比べる
具体性 抽象的すぎないか 自分の研究固有の情報が含まれているか
一貫性 前後の文脈と整合しているか 論文の他のセクションと合わせて読む
簡潔さ 冗長な表現がないか 同じ意味をより短く言えないか

プロンプト例:AI出力の自己評価

以下の2つの英文は、同じ日本語から生成したものです。
以下の5つの観点で比較し、各観点でどちらが優れているか、
理由つきで評価してください。
(1) 内容の正確さ  (2) 学術英語としての自然さ  (3) 具体性
(4) 前後の文脈との一貫性  (5) 簡潔さ

元の日本語:[日本語テキスト]
英文A:[1つ目の出力]
英文B:[2つ目の出力]

複数AIモデルの使い分け

異なるAIモデルにはそれぞれ傾向があります。洗練の目的に応じて使い分けることも有効です。

  • 出力の傾向を把握する: 同じプロンプトを複数のモデル(ChatGPT、Claude、Geminiなど)に投げ、どのモデルが自分の文体や分野に近い出力をするか確認する
  • 用途で使い分ける: 例えば、文法チェックにはモデルA、パラフレーズにはモデルBなど、得意分野に応じて使い分ける
  • 最終判断は自分で行う: どのモデルの出力を採用するかは、自分の分野知識と文体の一貫性に基づいて決める

モデルの出力傾向は変わる

AIモデルは頻繁にアップデートされるため、出力の傾向も変化します。「以前はこのモデルが良かった」という判断は定期的に見直してください。

洗練の「やめどき」を判断する

AIによる洗練は何度でも繰り返せますが、やりすぎは逆効果です。過剰な推敲には以下のリスクがあります。

  • 言い回し、意図、視点などの書き手らしさ(voice)や著者性(authorship)が失われる: 磨きすぎると「誰が書いても同じ」文章になる
  • Augmented Competenceの範囲を超える: 自分が理解・説明できない表現を使ってしまう
  • 時間対効果が悪い: 3回目以降の洗練は改善幅が小さくなることが多い

やめどきの判断基準

以下の条件を満たしたら、洗練を終了してよいサインです。

  • 日本語の原文と突き合わせて、意味の逸脱がない
  • セクションの時制・態の慣習に従っている
  • 使われている表現をすべて自分で説明できる
  • 前後のセクションと文体が一貫している
  • AIの修正提案に「なるほど」ではなく「これは好みの問題」と感じるようになった

5回目の洗練で「もっと良くなるはず」と感じたら

それは改善ではなく、AIの出力に自分の判断を合わせ始めているサインかもしれません。一度手を止めて、自分の下書きに戻って読み直してみてください。

プロンプトのテンプレート化

よく使うプロンプトをテンプレートとして保存しておくと、効率が大幅に向上します。以下は、本ページで扱った洗練プロセスに沿った基本テンプレートです。

テンプレートの保存方法

テンプレートはテキストファイルに保存してセクション別にフォルダ分けするほか、ChatGPTの「カスタムGPTs」やClaudeの「プロジェクト」に登録しておく方法もあります。これらのツールの詳細は 2.3 カスタム指示の保存機能を活用した校正 を参照してください。

テンプレート1: 日本語→英語変換

以下の日本語を、英語論文の[セクション名]セクションとして
自然な学術英語にしてください。

条件:
- 時制: [過去形 / 現在形 / セクションの慣習に従う]
- 態: [受動態中心 / 能動態中心 / 混合]
- ヘッジ: [適切に加える / 加えない]
- 新しい内容は追加しない
- 架空の文献引用は入れない

[ここに日本語テキスト]

テンプレート2: 英文の診断

以下の英文を、[セクション名]セクションの文章として診断してください。

確認項目(各項目について問題があれば指摘、なければ「OK」):
(1) 文法・語法の誤り
(2) 時制の適切さ([セクション名]の慣習に沿っているか)
(3) 学術英語の文体(主語の長さ、ヘッジ、冗長表現)
(4) 論理の流れ(文と文のつながり)

修正案は各項目1案まで。

[ここに英文]

テンプレート3: 表現の候補提示

以下の英文の TARGET(対象表現)を、意味を変えずに言い換えてください。
候補を3つ。各候補について:
1) 適した場面(1行)
2) フォーマル度(高/中/低)

TARGET:
<<<
[ここに対象の表現]
>>>

CONTEXT:
<<<
[ここに前後の文を含む英文]
>>>